「英語ができれば年収が上がる」とよく言われます。本当にそうなのでしょうか。この記事では、国の研究機関である経済産業研究所(RIETI)が約6,000人の調査データで分析した研究と、総務省の社会生活基本調査を使って、英語と賃金の関係を確かめます。

先に結論を言うと、この研究では「英語ができる(と自分で答えた)」ことと賃金には、はっきりした関係は見られませんでした。一方で、「仕事で英語を使っている」人は、使っていない人より賃金が約13〜21%高いという結果が出ています。ただし、これは「英語を勉強すれば年収が上がる」という意味ではありません。理由も含めて見ていきます。

使ったデータ:RIETIの研究とは

中心に使うのは、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)のディスカッション・ペーパー「スキルの保有と利用の実証分析:ICTスキルと英語スキルに着目して」(2022年8月)です。

項目内容
調査RIETIが2019年3月に行ったインターネット調査
対象日本に住む25〜59歳の男女6,000人(国の統計に合わせて性別・年齢・地域・学歴・就業状態を割り付け)
見たもの英語の4技能(読む・書く・聞く・話す)を自分でどう評価しているか/過去1年に仕事で英語を使ったか/時間当たりの賃金
比べ方年齢・学歴などをそろえたうえで、さらに職種・産業・会社の規模もそろえて比べる

英語の力は、TOEICなどの点数ではなく、本人が「ほとんどできない」〜「非常によくできる」の5段階で答えたものです。研究によると、点数を答えた人が少なかったため、自己評価を使ったとされています。

なお、ディスカッション・ペーパーは研究者個人の見解として公開されるもので、RIETIという組織の公式見解ではありません。

英語が「できる」と答えた人は多くない

約60%
読む・書く・聞く・話すの各技能で「ほとんどできない」と答えた人の割合

この調査では、英語の4技能のどれについても、約60%の人が「ほとんどできない」と答えていました。たとえば「話す」は「日常生活や仕事の会話について英語で十分話すことができる」かどうかを聞いています。研究では、別の全国調査(JGSS)でも同じような傾向だったと書かれています。

つまり、英語に自信がない人の方が多数です。「自分だけができない」と思う必要はありません。

「英語ができる」と賃金の関係

研究の結論は、自己評価の英語力と賃金には、系統的な(一貫した)関係が見られないというものでした。もう少し細かく見ると、次のような結果です。

  • 男女計:会話で「あまりできない」「少しはできる」と答えた人に約8〜12%の差が見られたものの、職種・産業など職場の違いをそろえていくと、その差は0に近づいた。
  • 男性:読む力で「非常によくできる」と答えた人だけ、約60%の差が見られた。
  • 女性:会話で「少しはできる」「よくできる」と答えた人に約20%の差が見られたが、職場の違いをそろえると関係は消えた。

「英語ができるほど賃金が高い」という、きれいな右肩上がりの関係にはなっていない、ということです。英語ができる人が多い職場や職種に、もともと賃金が高い仕事が多い、という可能性もあります。

「仕事で英語を使う」と賃金の関係

約13〜21%
仕事で英語を使う人と使わない人の、時間当たり賃金の差(RIETIの研究)

一方で、「過去1年に、仕事で英語を読んだり、聞いたり、話したりしたことがあるか」で分けると、結果は変わります。研究によると、どの比べ方でも、仕事で英語を使う人は使わない人より約13〜21%賃金が高いという結果でした。男女どちらでも同じ傾向です。

職種・産業・会社の規模をそろえて比べても、この差は残っていました。

なぜ「使う」ほうに差が出るのか

研究では、この差には2つの可能性があると書かれています。

  1. 英語を使って仕事をすること自体が、高い賃金につながっている
  2. 英語を使う仕事に就いていること(そういう仕事は賃金が高い)が、差になって表れている

どちらなのかは、この研究だけでは分けられません。また、研究の中では、仕事で英語を使っているかどうかが同じ人どうしで比べると、英語力の高さと賃金の関係は一様ではなかったとも書かれています。

このデータから言えるのは「英語を持っているだけ」より「仕事で使う場にいる」ことが賃金と結びついている、という傾向です。英語を勉強すれば年収が上がる、という因果関係を示したものではありません。

研究の中では、ほかの研究も紹介されています。ある国立大学の卒業生のデータでは英語力と所得に正の関係が見つかった研究(松繁 2002)がある一方、仕事で英語が必要な人の中でも英語力の有無で時間当たり年収に差がなかったという研究(寺沢 2015)もあり、結論は研究によって分かれています。

英語を学んでいる人はどれくらい?

総務省の「令和3年社会生活基本調査」(2021年10月実施)では、過去1年間に学校の授業や職場研修以外で学習・自己啓発・訓練をした人の割合(行動者率)が調べられています。

39.6%
学習・自己啓発・訓練をした人(10歳以上)
13.5%
「英語」を学んだ男性
12.2%
「英語」を学んだ女性

男性では「パソコンなどの情報処理」(20.1%)に次いで「英語」が2番目に多く、女性でも「英語」は上位に入っています。また、英語を学ぶ目的は「自分の教養を高めるため」が最も多いと報告されています。仕事のためだけでなく、教養として英語を学ぶ人も多いことがわかります。

キャリアに活かすための考え方

データから見えた「使う場にいることが大事」という傾向をふまえると、英語をキャリアに活かしたい人は、次の順番で考えると整理しやすくなります。

段階やること
1. 使う場面を決める今の仕事や目指す仕事で、英語を使うのはどんな場面か(メール・会議・資料を読む等)を書き出す
2. その場面の練習をする試験の点数だけでなく、使う場面に近い練習をする(AIを相手にしたロールプレイも一つの方法)
3. 使う場に手を挙げる社内で英語を使う仕事に関わる・英語を使う求人を調べるなど、「使う側」に回る

場面を決めた練習のやり方は、ChatGPTで英会話を練習する方法|プロンプト例つきで紹介しています。年収や採用の条件は、会社・職種・年齢などで大きく変わります。英語を使う求人を見るときは、実際にどのくらい英語を使うのか、給与の条件とあわせて確かめてください。

まとめ

  • RIETIの研究(2019年調査・25〜59歳6,000人)では、英語の4技能それぞれで約60%が「ほとんどできない」と回答
  • 自分で評価した英語力と賃金には、一貫した関係は見られなかった
  • 仕事で英語を使う人は、使わない人より時間当たり賃金が約13〜21%高かった。ただし「英語を使う仕事は賃金が高い」可能性もあり、因果関係は示していない
  • 2021年に英語を学んだ人は男性13.5%・女性12.2%。目的は「自分の教養を高めるため」が最多

出典・注意書き

基準日:2026年10月時点(使った調査:RIETIの調査は2019年3月実施・論文は2022年8月公開/社会生活基本調査は2021年10月実施)

数字の読み方の注意

  • RIETIの研究の英語力は、試験の点数ではなく本人の自己評価です。「仕事で英語を使う」は、過去1年に仕事で英語を読む・聞く・話すなどを少しでもしたかどうかで分けています。
  • 賃金の差は、統計的な分析で推計した時間当たり賃金の差で、個人の年収がその分上がることを示すものではありません。
  • 「英語を使う人は賃金が高い」は相関(いっしょに見られる傾向)で、英語を学べば年収が上がるという因果関係を示したものではありません。
  • 調査は2019年・2021年に行われたものです。その後の状況は変わっている可能性があります。
  • 社会生活基本調査の「学習・自己啓発・訓練」は、学生の授業や社会人の職場研修は含みません。

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